在日外国人の国別クラスタ分析

高瀬淳一
( 世界共生学部教授、グローバル共生社会研究所長 )

要旨

  K-means法を用いた非階層型クラスタリングにより,在留者の多い50か国は4クラスタに類型化できた。それらは 「留学型」「多様型」「技能実習型」「永住・定住型」と特徴づけることができよう。

研究課題

 2018年9月19日,法務省入国管理局は「平成30年6月末現在における在留外国人数について(速報値)」を発表した(注1)。そのプレスリリースには,在留外国人数の「増加が顕著な国籍・地域」として,ベトナムとネパールへの言及があった(注2)。

 たしかに,この統計によると,日本に滞在するベトナム人は対前年末比で11.1%増,ネパール人は6.6%増となっており,また総人数においてもこの2国からの在留者は国別上位にランクしている(表1)。だが,プレスリリースは,この2国からの在留者について,在留資格に顕著な差が見られることには触れていない。公表データを一瞥すれば明らかなように,ベトナム人では「技能実習」での在留者が多く,ネパール人については「留学」での在留者が多いのが実態である。はたして,こうした差異は他の国からの在留者についても見いだせるものだろうか。 

表1 在留外国人数(平成30年6月末現在、法務省入国管理局) 

中国 741,656人 構成比28.1%
韓国 452,701人 構成比17.2%
ベトナム 291,494人 構成比11.1%
フィリピン 266,803人 構成比10.1%
ブラジル 196,781人 構成比 7.5%
ネパール 85,321人 構成比 3.2%


 本稿はこの点を解明すべく,法務省入国管理局の上記統計についてK-means法によるクラスタ分析を行った際の「研究ノート」である。

 すなわち,ここでの研究課題は,
1 出身国によって在留の在り方に傾向的な違いが見られるのか?
2 それは,いくつかのパターンに分けることができるのか? 
 の2点である。  

研究方法

 対象国:1000人以上が滞在している上位50か国。日本に在留者を出している全194か国のうち,表1にあるように上位6か国で在留外国人の77.2%を占めているが,この研究ではこれを上位50か国に拡大することで在留外国人の99.0%を対象に含めた。

 対象在留資格:技能実習(全タイプ合計),技能,留学,永住者,配偶者,定住者。周知のごとく,日本における外国人の在留資格の種類は,技能実習の小分類などを含めた場合,30種類を上回る。この研究では,このうち在留資格ごとの人数において上位となっているもの(技能実習,留学,永住者)に,それに類した在留資格を加えることとした。

 分析手法:非階層型クラスタリングのアルゴリズムであるK-means法。
python向けに開発された scikit-learnという機械学習ライブラリを利用し,クラスタの導出を図った。

研究結果

 50か国は,その在留資格の特徴によって4つのクラスタに分けられた(図1)。

図1:下段より 青=技能(調理師等),オレンジ=技能実習(全カテゴリー)
  緑=留学,赤=永住者,紫=配偶者,茶=定住者

 各クラスタは以下のように特徴づけられる(クラスタ番号は便宜上0~3)。

クラスタ0(8か国)「留学型」

 このクラスタの特徴は「留学」の多さである。8か国がこのクラスタに分類されたが,1万人以上在留者がいる国では,ネパールのほか,スリランカ,バングラデシュ,モンゴル,マレーシアがここに該当した。

 なお,「技能」が他のクラスタより若干多く見えるのは,このクラスタ内で在留者数が最も多いネパールから多くの調理師が来ているためだと考えられる。

クラスタ1(24か国)「多様型」

 このクラスタでは「永住者」と「配偶者」が多いものの,むしろその特徴は棒グラフの低さにある。これはすなわち分析対象に含めなかった二十数種類に及ぶ多様な在留資格(たとえば教育,研究,経営管理,転勤など)で長期滞在している者が,それぞれでは少数であっても,合計すればかなりの率を占めていることを意味している。幅広い社会活動のために来日して長期滞在(あるいは永住)する者を多く出している国,と言い換えることもできるだろう。

 このクラスタ1には,北米3か国と,スウェーデンを除く西欧諸国のすべてが分類された。アジア諸国については,中国,韓国,台湾のほか,タイ,シンガポール,インド,パキスタン,トルコがこのクラスタに含まれている。一方で,南米諸国からこのクラスタに位置づけられた国はなかった。

 なお,従来,中国については,留学を理由とした長期滞在が多く,その一部は「偽装留学」のかたちで就業していると指摘されることがあった。だが,この統計では,留学を理由とした在留者は16%ほどであり,クラスタ0の国々に比べ顕著に低く,そうした巷間ささやかれる「先入観」を裏づけることはできなかった。言うまでもなく,中国からの在留者の経年的な多様化の実態や,その背景(中国国内の経済状況や日中関係の在り方など)について分析・説明することは本稿の範囲を超えるので,これ以上は控えたい。 

クラスタ2(4か国)「技能実習型」

 このクラスタでは「技能実習」の割合が顕著に大きい。一方で「配偶者」や「永住者」の比率は他よりも小さく,技能実習後に帰国する者が多いことを示唆している。

 「技能実習」が多いことで知られるベトナムは,当然,このクラスタに分類された。加えて,インドネシア,ミャンマー,カンボジアの計4か国がこのクラスタに含められた。

 なお,この時点で,ミャンマーやカンボジアからの在留者は人数のランキングで14位と19位であるが,「技能実習」の送り出し機関が整備されるにしたがって,今後,この人数はベトナムの後を追うように増えていく可能性がある(すでに総人数で9位のインドネシアについては人数の急増が見られる)。

クラスタ3(14か国)「永住・定住型」 

 このクラスタでは「永住者」と「定住者」がきわめて多く,また「配偶者」の割合も大きい。反面,棒グラフの高さから見ても,この3種以外の在留資格者は顕著に少ない。

 「永住者」,「定住者」,「配偶者」は,期間を定めての滞在ではなく,日本に永続的に暮らすことを受け入れている,あるいは受け入れる可能性が高い外国人たちである。ゆえに,このクラスタは,すでに日本社会に溶け込んでいる人たちの出身国,と言い換えることもできるだろう。

 在留者数の上位3位と4位のフィリピン,ブラジルは,このクラスタに属する。日系人が多い南米諸国(ペルー,ボリビア,コロンビア,パラグアイ,ウルグアイ)も,このクラスタである。そのほか,ナイジェリア,ガーナ,ロシア,イランなどがここに分類された。

 なお,イランについては,ビザ相互免除期間(1974~92年)に多く見られた不法就労者が帰国した後,現在では在留者の4分の3が永住者や定住者になっている(よく知られているように,近年は芸能界やスポーツ界で活躍する者も出ている)。

まとめ

 在留の在り方における国ごとの違いは,K-means法によるクラスタ分析によって,4つに整理できることがわかった。たとえば技能実習生への対応と永住者への対応が異なるべきものだとすれば,多文化共生政策を進めるうえで,国ごとの特徴理解は有用と言えるだろう。

 なお,2018年12月に成立した「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」に基づき,2019年4月から「特定技能1号」「特定技能2号」の資格での在留が認められるようになった。本研究は,この新制度の導入の前後における国別在留者の変化を分析するうえでも役立つにちがいない。



注1 法務省入国管理局・在留外国人統計・統計表 http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html

注2 法務省報道発表資料(平成30年9月19日) http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00076.html

参考文献

Julian Avila / Trent Hauck 著(株式会社クイーブ訳)『scikit-learn 活用レシピ 80+』インプレス,2019.

法務省入国管理局ホームページ http://www.immi-moj.go.jp/