🆕広島サミット:「シティ・リトリート方式」での開催について

グランドプリンスホテル広島

高瀬淳一  RINGS所長  (G7サミット・リサーチユニット)
小野展克  世界共生学科長(G7サミット・リサーチユニット)

2023年の「G7広島サミット(主要7か国首脳会議)」は,広島市南区宇品町(宇品島)にあるグランドプリンスホテル広島で開催される。人口が100万を超える都市でのサミット開催は,近年においては例外的である。本論考では,簡単にサミット開催地の歴史を振り返りつつ,7月に行った現地調査を踏まえて,広島サミットの特徴と課題を「開催地」に着目して整理する。

1 リトリート(隠れ家)開催への移行

1975年に始まったサミットは,すでに半世紀ちかい歴史を持つ。第1回こそ首脳たちが自由に語り合える雰囲気を重視してパリ郊外のランブイエの古城で開催されたが,まもなくロンドンや東京といった首都や首都近郊,あるいは国内第2・第3の都市が開催地に選ばれるようになった。

選考基準の変化は2000年の沖縄サミット(第26回)の成功によるものである。前年のケルン・サミット(ドイツ)で会議場が市民運動に取り囲まれたことから,日本政府は隔絶した場所(名護市の部瀬名岬)に会議場を建設することとした。言うまでもなく,沖縄に米軍基地問題があることを強く意識した政治的決定であった。

翌2001年のジェノヴァ・サミット(イタリア)ではデモ中の市民から死傷者が出た。さらに同年9月にはアメリカで同時多発テロが発生した。これを受けてカナダは2002年のサミット開催地をケベック市からロッキー山脈にある小さなリゾート地カナナスキスに変更した。これ以降,沖縄が手本となったリトリート(隠れ家)開催方式が踏襲されてきた。

2 広島サミットは初の「シティ・リトリート」開催

これまで日本で開催されたサミットは,東京で3回(1979年,1986年,1993年)とリトリート方式で3回(2000年の九州沖縄サミット,2008年の北海道洞爺湖サミット,2016年の伊勢志摩サミット)の計6回である。

都道府県庁所在地や最も近い100万都市からの距離を見ると,沖縄サミットでは約60キロ(会場が置かれた名護市部瀬名岬から那覇市まで),洞爺湖サミットでは約150キロ(札幌市まで),そして伊勢志摩サミットでは三重県庁まで70キロ,愛知県庁まで160キロである。

一方,広島サミットの開催地は100万都市である広島市内にあり,ホテルのある宇品島は広島市中心街から7キロ程度しか離れていない。およそ20年のリトリート方式の歴史の中ではきわめて例外的である。

宇品島:島の左下にホテルはある

宇品島は島であることから,本土とつながる1本の橋(道路)を封鎖すれば隔絶したエリアとなる。その点では,リトリートの趣がないわけではない。とはいえ,島にあるホテルは23階建てのグランドプリンスホテル広島だけで,客室数は公式ホームページによると510室(1259名宿泊可)で,うちスイートルームは8室である。メインバンケットホールは2000人が利用可能とされていることから,会議場としての不足はないのだろうが,首脳と配偶者の宿泊を一手にまかなうのは難しい。

しかも,G7首脳とEU首脳だけでも9人いる上に,招待される途上国首脳と国際機関首脳も含めると,サミットに参加する首脳クラスは20人ちかくになる。首脳クラスは宇品島ではなく街中に宿泊し,会議場にいわば通勤することになるにちがいない。事実,広島誘致推進協議会の計画案でも,広島市中心部にあるヒルトン,シェラトン,リーガロイヤル等の高級ホテルが宿泊候補に挙げられていた。

これはすなわち,中心部も含めて広島市がサミット実質的な開催地になるということである。開催形態としては初となる「シティ・リトリート」方式と言ってよいだろう。

3 開催地から見た意義と課題

広島サミットは,世界的に有名な街での開催という点でも,この20年間のサミットでは例外的である。核保有3か国(ゲストとしてインドが招待されると4か国)を含め,主要国の首脳たちが爆心地に宿泊して,核不拡散を含む議論にのぞむ。当然のこととして,記念撮影も平和記念公園で行われるであろう。ロシアが戦争の当事国となる時代にあって,「HIROSHIMA」を世界に再認識させる意義はきわめて大きい。

ホテルから市内方向を見る。

そもそも開催地名だけで議長国が意識している議題がわかるケースは,サミット史上初である。それだけに,平和を望む世界の人々の期待を裏切らない成果を上げることが,議長国日本には求められていると言えるだろう。

最大の課題は言うまでもなく警備にある。広島サミットが平和を訴えるサミットとして記憶されるには,サミットに暴力が持ち込まれてはならないのは当然だ。

会議場のある宇品島については,1800人ほどの住居と小学校や病院などがあるにせよ,隔離する形での警備は可能かもしれない。しかし,「通勤型」になった場合は,ホテル滞在中や移動中の警備にも細心の注意が必要となる。「シティ・リトリート」が完全な「リトリート(隠れ家)」でない以上,安全な開催に向けた負担は重くなる。

言うまでもなく市民生活への影響も大きい。宇品島の住民だけでなく,市内の交通規制が強まる以上,市民の理解と協力が不可欠になる。その意味で,「シティ・リトリート」型で開催される2023年の広島サミットの真のホストは,広島市民であると言ってよいだろう。


参考文献

高瀬淳一 『サミットがわかれば世界が読める』(名古屋外国語大学出版会,2015年)

グランドプリンスホテルHP(https://www.princehotels.co.jp/hiroshima/

2023年G7サミット広島誘致推進協議会「2023年G7サミット広島誘致計画案」(2021年12月20日外務省提出)